カテゴリー: 4. 大学で介護福祉を学ぼう

  • 介護福祉教育における大学教育の意義

    介護福祉教育における大学教育の意義
    京都女子大学 井上千津子
    1.教養教育による基礎力の修得
    介護とは、生命と生活に責任を持つ仕事であり、ゆえに、生活の主体者である「人間とは何か、」この認識こそが不可欠であり、認識するための教育が重要になる。人間の根元を認識した介護の質の高まりへと止揚していくための、教育が必須条件になる。介護は、要介護者と介護の提供者双方が、ただ単に介護を提供する、介護をうけるという関係だけではなく、人格と人格とが関わり、命と生活を共有するという相互作用により、双方の成長を促すという処に介護の価値が存在するのである。こうした介護のもつ特性からも、教養人として、また、人間として成熟していく基礎としての教養教育こそが求められているのではないだろうか。ちなみに「教養教育」、について、中央教育審議会大学分科会・学士課程教育の在り方に関する小委員会において「自らが今どのような地点に立っているかを見極め、今どのような目標に向かって進むべきかを考え、目標の実現のために主体的に行動する力を持つこと」と端的に説明している。介護福祉教育の根幹である対人援助においては、この「教養という基礎力」が介護福祉士の立ち位置を決定することになる。この教養教育のためには、教育期間と幅広い学際的な教員組織が不可欠であり、ここに大学教育の必要性、かつ重要性が裏付けられるのである。この教養教育のためには、教育期間と幅広い学際的な教員組織が不可欠であり、ここに大学教育の必要性、かつ重要性が裏付けられるのである。

    2.多様性のある介護福祉教育による汎用性や創造能力の育成
    大学故に、専門職としての単なる即戦力ではなく、知的活動や職業生活、社会生活でも必要な技能としての汎用的技能を併せ持ち、市民としての社会的責任の遂行、自己管理力や論理的思考力などが修得された質の高い介護福祉士の養成を志向すべきである。そのためには、介護福祉士資格要件に合致した科目設定にとどまらず、各大学の独自性を活かして、多様性のあるカリキュラムを構成すべきである。個性ある専門職教育を展開する事によって、始めて、個性的な、そして深みと広がりを持った介護福祉士の誕生を可能にするのではないだろうか。大学教育は多様なカリキュラム設定が可能であり、その結果、汎用性や創造的思考力をもった人材養成が可能になるのである。

    3.介護福祉士資格の社会的評価の必要性
    資格レベルは、資格の社会的評価と連動することは、周知の通りである。社会的評価を高めるためには、介護という労働評価を高めることであり、そのためには、教育期間の延長が不可欠である。教育期間の延長は、教育内容の充実を図ることになり、質の高い人材が輩出されることに結びつき、このことが賃金をはじめとする処遇の向上に結びつくという循環が生まれる。このことは、介護職の介護という労働に対する意欲を喚起することであり、介護への人材の吸収につながり、離職率を低減することに結び就くのである。大学教育による資格の取得は、資格のレベルをあげることに結びつき、介護福祉の質の向上に連動し、結果的に社会的評価を上げることにつながっていくことになる。大学を卒業した介護福祉士が、専門性の高い人材として社会で活躍することが資格のレベルを高めることになり、人材の確保にもむすびつくことになる。

    4.リーダー養成・教育研究を担う人材育成
    介護福祉の実践場面においては、適時・適切なスーパービジョンの展開が緊要であり、さらに、介護を必要とする人への援助をすすめるには、1対1の個別介護を組み立てて実践するレベル、家族や他の専門職と共に援助していくチームケア、またサービスを創設し、基盤を整備していくレベル、これらを統合し連動させていく働きかけが重要になる。そのためには、介護福祉士のリーダー養成が必須条件になる。介護福祉士のリーダー養成のためには、大学における伸びしろのある介護福祉教育が不可欠であり、大学が担う役割であろう。さらに、大学における介護系教員不足の対応についても、文科省・厚労省の両要件を具えた教員養成のための役割が課せられることになる。

    6.研究・教育の質の確保
    教育環境の整備は、専門職の養成教育の確立にとっては大前提である。大学においては、格差はあるものの、それにふさわしい研究・教育条件が整備されている。教育環境は、介護福祉教育を向上させるための必須条件である。教員自身が自らの成長が実感でき、自信を持って教育できる時間的ゆとりなどの教育環境を抜きにして教育効果は望めないことは明白である。教育環境の柱は、研究に時間やエネルギーをどれほど注入できるか、ということであろう。介護福祉という実践領域においては、研究成果の学生教育への還元が第一義であり、さらに実践現場に貢献できる知見を導き出すことが求められる。そのためには、事例研究や調査研究を基本にして、研究結果を常に実践現場において実証し、さらにその成果の上に研究が積みあげられていくという研究の継続性こそ重要である。こうした研究成果の積み上げが介護の発展に結びつく意味からも大学教育の意義は大きい。

    7.地域におけるケア力の醸成
    個人の抱える生活問題から、地域の共通課題へと拡大し、地域の住民やボランティアが地域の福祉システムの開発や活動に参加するきっかけや意欲の喚起、継続性の維持のために専門職としてかかわっていくことによって、地域に根ざした福祉力を醸成していくことになる。こうした人材養成のためにも大学における教育の意義が存在するであろう。

    以上の点からも、大学における介護福祉教育の社会的意義は大きいといえる。